東大物理2020/解答解説
東大物理2020/解答解説
2020年3月4日
2020年度の東京大学前期日程の物理の解答解説です。
大問3つともこれからの問題集に使われそうな非常に良問だと思います。
めちゃくちゃ丁寧に書いたわけではないですが、ある程度解答の流れがわかる解説として書きました。
本番で解答するときはここまで丁寧に書かなくてもいいと思います。
問題はここから拾ってきてください。
※スマホ等で見る場合、式が途切れちゃうことがあると思うのでその時は画面を横にして見てください
第1問 力学
最初は中心力が働く系での運動を誘導に沿って解き、円運動するための条件を求め最後はダークマターの質量を制限するという問題でした。
速度・力のベクトルの平行条件・垂直条件に気付けるとかなり点数がもらえると思います。
Ⅰ(1)
\(\vec{r}=(x,y),\vec{v}=(v_x,v_y)\)の\( \Delta t\)秒後の\( \vec{r}’,\vec{v}’\)は
速度→単位時間あたりの位置変化
であるので
$$\vec{r}’=(x+ \underline{v_x}\Delta t,y+ \underline{v_y}\Delta t) \cdots ア,イ$$
同様に
加速度→単位時間あたりの速度変化
であるので
$$\vec{v}’=(v_x+ \underline{a_x}\Delta t,v_y+ \underline{a_y}\Delta t) \cdots ウ,エ$$
となる.
\( \Delta t\)秒後の面積速度\( A_v’\)は
$$A_v’=\frac{1}{2}(x’v_y’-y’v_x)$$
であるのでウ,エの式を用いて差分\( \Delta A_v\)を求めてやると
\begin{eqnarray}
\Delta A_v &=& A_v’-A_v\\
&=&\frac12 (xa_y\Delta t+v_xa_y\Delta t^2-ya_x\Delta t-a_xv_y\Delta t^2)
\end{eqnarray}
となる.
\( \Delta t^2\)の項は微小とし無視するので
$$\Delta A_v =\frac12 (x \underline{a_y}-y \underline{a_x})\Delta t \cdots オ,カ$$
(2)
面積速度が時間変化しない
\(\Rightarrow \)任意の時刻\( t\)と\( t+\Delta t\)での面積速度の差分である\( \Delta A_v\)が0であれば良い
\(\Rightarrow \frac12 (xa_y-ya_x)=0\)
ここで運動方程式より\(a_x=\frac{F_x}{m},a_y=\frac{F_y}{m} \)であるので代入して\( \frac12(x\frac{F_y}{m}-y\frac{F_x}{m})=0\)
よって\( \underline{xF_y-yF_x=0}\)が条件となる.
(3)
ベクトルの平行条件\( \vec{a}=k\vec{b}\)を考える.
\(\vec{a}=(a_1,a_2),\vec{b}=(b_1,b_2) \)とすると、これらが平行であるとき
\begin{eqnarray}
a_1:a_2 &=& kb_1:kb_2\\
\Leftrightarrow k(b_1a_2-b_2a_1)&=&0
\end{eqnarray}
この\( \vec{a} ,\vec{b}\)をそれぞれ\( \vec{r} ,\vec{F}\)とすると(2)で求めた条件となる.
したがって\( \vec{r}と\vec{F}\)は平行である.
また、円運動では必ず\( \vec{r}と\vec{v}\)は垂直である.
以上より\( \vec{F}と\vec{v}\)は運動中常に垂直であるため、\( \vec{F}\)の仕事は円軌道上のいかなる点でも0である.
よって\( \underline{点A→B及び点B→Cまでの仕事は共に0で等しい.}\)
II(1)
小球の運動エネルギー\( K\)は
$$K=\frac{1}{2}m(v_x^2+v_y^2)$$
また動径方向の運動エネルギー\( K_r\)は
\begin{eqnarray}
K_r&=&\frac12mv_r^2\\
&=&\frac12 m(\frac{xv_x+yv_y}{r})^2
\end{eqnarray}
であるので差分\( \Delta K\)を計算すると
\begin{eqnarray}
\Delta K&=&K-K_r\\
&=&\frac12 m(v_x^2+v_y^2-(\frac{xv_x+yv_y}{r})^2)\\
&=&\frac{m(x^2v_y^2+y^2v_x^2-2xyv_xv_y)}{2r^2}
\end{eqnarray}
\( A_v=\frac{1}{2}(xvy-yv_x)\)であるので\( \underline{\Delta K=\frac{2mA_v^2}{r^2}}\)
(2)
\( A_v=A_0\)とすると、小球の力学的エネルギー\( E\)は(1)より
$$E=\frac12mv_r^2+\frac{2mA_0}{r^2}-G\frac{Mm}{r}$$
である.
任意の\( r\)で\( \frac{2mA_0}{r^2}-G\frac{Mm}{r}\)は一定であるので、\( E\)が最小となるのは\( \frac12mv_r^2\)が最小となるときである.
つまり\( v_r^2=0\)の時であり\( xv_x+yv_y=0\)
これは\(\vec{r}と\vec{v}\)が垂直であるときの内積である.
従って、力学的エネルギーが最小となるのは \( \underline{等速円運動している時}\)である.
次にこの時の力学的エネルギーを求める.
まず円運動方程式より
\begin{eqnarray}
m\frac{v^2}{r}&=&G\frac{Mm}{r^2}\\
\Leftrightarrow v^2&=&\frac{GM}{r}
\end{eqnarray}
また力学的エネルギーは\( \frac{2mA_0}{r^2}-G\frac{Mm}{r}\)となっており \( K+U\)の形になっているので(K:運動エネルギー,U:位置エネルギー) \( v^2 \)を代入することで
$$\frac{1}{2}mv^2=\frac{GMm}{2r}=\frac{2mA_0}{r^2}$$
となる.
よって \( r=\frac{4A_0^2}{GM}\)と求まる.
以上より
\begin{eqnarray}
E&=&\frac12mv^2-G\frac{Mm}{r}\\
&=& \underline{-\frac{G^2M^2m}{8A_0}}
\end{eqnarray}
Ⅲ(1)
問題が与えてくれた量子条件とド・ブロイ波長より
$$2\pi r=\frac{nh}{mv}$$
円運動方程式より
$$m\frac{v^2}{r}=G\frac{Mm}{r^2}$$
\( v\)を使ってはいけないので、これらの式から頑張って \( v\)を消すと
$$\underline{r_n=\frac{n^2h^2}{4\pi GMm^2}}$$
(2)
(1)の答えを\( n=1でr_n=10^{22}\)とすると
$$\underline{m=10^{-61}kg}$$
第2問 電磁気学
磁場中での導体棒の運動を考える問題。
ポイントはエネルギーとかを積分の考え方にちゃんと結び付けられるかどうかじゃないですかね。
典型問題で勉強材料とするにはポイントがたくさん詰まっていてとても良い問題だと思います。
Ⅰ(1)
ローレンツ力: \( \underline{IBd}\cdots ア\)
フレミング左手の法則より \( \underline{下}向き\cdots イ\)
誘導起電力は右ねじの法則から \( \underline{X}が正\cdots ウ\)
\( \underline{V=V_0}\)となると流れなくなる\( \cdots エ\)
誘導起電力の大きさは \( vBd\)
これが電池による起電力 \( V_0\)と等しくなれば良いので \( v=\underline{\frac{V_0}{Bd}}\cdots オ\)
(2)
運動量の変化は力積を考えれば良い.
\( m\Delta s=IBD\Delta t\)
よって $$ \Delta s=\underline{\frac{IBd}{m}\Delta t}$$
起電力は \( V+\Delta V=(s+\Delta s)Bd\)
変化分をとってきてやると
\begin{eqnarray}
\Delta V&=&\Delta sBd\\
&=&\underline{\frac{IB^2d^2}{m}\Delta t}
\end{eqnarray}
となる.
(3)
(2)より微小時間 \( \Delta t\)に流れる電気量は \( I\Delta t= \frac{m}{Bd}\Delta s\)
全電気量はこれの積分であるので
\begin{eqnarray}
Q&=&\int^s_0\frac{m}{Bd}ds\\
&=&\frac{m}{Bd}\\
&=&\underline{\frac{mV_0}{B^2d^2}}
\end{eqnarray}
となる.
(4)
微小時間中に起電力に逆らって電荷を運んだ仕事は
\begin{eqnarray}
\Delta W &=& sBd\Delta Q\\
&=&sBdI\Delta t\\
&=&ms\Delta s
\end{eqnarray}
これを積分する.\begin{eqnarray}
W &=& \int^{s_0}_0msds\\
&=&\underline{\frac12 ms_0^2}
\end{eqnarray}
(5)
(1)オと(4)より導体棒の運動エネルギーは \( \frac12 QV_0\)
抵抗で発生するジュール熱は \( QV_0-\frac12 QV_0=\frac12 QV_0\)
よって \( \underline{運動エネルギー\frac12 QV_0,ジュール熱\frac12 QV_0}\)に変わった.
II
幅\( 2d\)のレール上での到達速さを\( s’\)とすると、誘導起電力の大きさは\( 2s’Bd\).
これが\( V_0\)と等しいので\( s’=\frac{V_0}{2Bd}\).
よって到達速度は\( \underline{\frac12}\cdots カ\)倍となる.
起電力は\(\frac{V_0}{2Bd}B・2d=V_0 \)
つまり\( \underline{1}倍\cdots キ\).
回路が切れているのでローレンツ力は生じず速度変化はない.
つまり\( \underline{1}倍\cdots ク\).
起電力は\( \frac{V_0}{Bd}・B・2d=2V_0\)となり\( \underline{2}倍\cdots ケ\).
Ⅲ
それぞれのレール上での到達速さを\( s_1,s_2\)とすると回路方程式は
$$V_0-s_1Bd-2s_2Bd=0$$
また運動量と力積の関係を考えると
$$m\Delta s_1=IBd\Delta t$$
$$m\Delta s_2=2IBd\Delta t$$
ここから\(\frac{\Delta s_1}{\Delta s_2}=\frac12\)
これは到達速度に達するまで\( s_1とs_2\)の速さの変化比は一定ということを意味する.
\( s_1,s_2\)の初速度は共に0であるので\( s_1=\frac12 s_2\).
以上より
\begin{eqnarray}
s_1=\underline{\frac{V_0}{5Bd}}\\
s_2=\underline{\frac{2V_0}{5Bd}}
\end{eqnarray}
となる.
第3問 熱力学
最初表3-1に気付かずなんやこれどーやって解くん?!?!?!ってなったのでこれが受験本番だったら死んでましたね。
問題自体は各過程での状態を全てくれているのでそんなに難しい問題ではないかと。
ただ、過程ごとのエネルギー変化のイメージが掴めないとちょっと厳しいかも。
Ⅰ
仕事の”する”・”される”に気をつけてください.
①断熱過程なので、熱力学第一法則より仕事はそのまま内部エネルギーと等しくなる.
\begin{eqnarray}
W_1&=&U_B-U_A\\
&=&\underline{\frac32 (\frac{1}{a^2}-1)RT_A}
\end{eqnarray}
②定圧変化なので仕事は体積変化を考えれば求まる.
\begin{eqnarray}
W_2&=&\frac{p_A}{a^5}(V_B-V_A)\\
&=&\frac{p_A}{a^5}(a^3\frac{RT_A}{p_A}-\frac{4}{5}a^5\frac{RT_A}{p_A})\\
&=&\underline{(\frac{1}{a^2}-\frac45)RT_A}
\end{eqnarray}
③断熱変化なので①と同様に考えれば
\begin{eqnarray}
W_3&=&U_D-U_C\\
&=&\underline{\frac65 (\frac{1}{a^2}-1)RT_A}
\end{eqnarray}
Ⅱ(1)
内部エネルギーは温度変化によって決まるので
$$\Delta U_4=\frac32R(T_E-T_D)$$
(2)
定圧変化なので気体がされた仕事は
$$W_4=p_A(V_D-V_E)$$
それぞれの体積\(V_D,V_E \)が欲しいので、状態方程式より
$$V_D=\frac{RT_D}{p_A}$$
$$V_E=\frac{RT_E}{p_A}$$
が得られる.
これを代入すると
\begin{eqnarray}
W_4&=&p_A(\frac{RT_D}{p_A}-\frac{RT_E}{p_A})\\
&=&\underline{R(T_D-T_E)}
\end{eqnarray}
(3)
Yは等積変化をするため受け取る熱量は
$$Q_Y=\frac32 R(T_A-T_E)$$
またⅡ(1)(2)よりXが操作④によりが失う熱量は
\begin{eqnarray}
Q_X&=&\Delta U_4+W_4\\
&=&\frac52 R(T_E-T_D)
\end{eqnarray}
\( Q_X\)と\( Q_Y\)は等しいので
$$T_E=\underline{\frac{3T_A+5T_D}{8}}$$
Ⅲ (1)
B→C,D→Eは定圧過程である.
定圧過程になっていないア,エは除外.
D→Eは定圧過程であり、XはYへ熱量を渡しているため温度が下がっている.
ボイル・シャルルの法則より温度減少に伴い体積も減少する.
体積が減少していないイ,カは除外.
状態Aと状態Eでは圧力は同じで、温度は題意より状態Eの方が高い.
よってボイル・シャルルの法則より状態Eの方が体積は大きい.
残ったウ,オのうち\( V_A < V_E\)となっている\( \underline{オ}\)が正しい.
(2)
つまり\( T_E > T_A\)であればよいということである.
Ⅱ(3)の結果に\( T_D\)を代入すると
\begin{eqnarray}
\frac{3+4a^2}{8}T_A &>& T_A\\
a^2&>&\frac54\\
\end{eqnarray}
よって
$$\underline{a > \frac{\sqrt5}{2}}$$
(3)
Xがされた仕事\( W\)と②でZから受け取った熱量\( Q\)はXとYの内部エネルギー変化となる.
ここで、XとYは共に1molの単原子分子理想気体であるのでXとYの内部エネルギー変化は等しい.
よって
\begin{eqnarray}
2\Delta Q_Y &=& Q_2+W\\
\Delta Q_Y &=& \underline{\frac{Q_2+W}{2}}
\end{eqnarray}
(4)
物体Zの温度は常に一定であるので、状態DでのXの温度\( T_D\)は変わらない.
よって回数を重ねるごとに\(\underline{ T_D}\)へ漸近する.
まとめ
どの大問も東大らしい良問だと感じました。
東大を受けたい人や他の難関大学を目指す人にとってはとても良い勉強になると思います。